テクニカル・インサイト
2010年9月1日
第四回:SIGGRAPH2010レポート
その①
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世界最大級のコンピュータグラフィックス(CG)とインタラクティブ技術の学会、SIGGRAPHが、今年はロサンゼルスで開催されました。 CGはいいとして「インタラクティブ技術」というのがピンとこない人もいるかも知れませんが、かみ砕くと「CGとの相互インターフェース技術」と説明ができ、具体的なその技術の応用先としては仮想現実(Virtual Reality)や拡張現実(Augumented Reality)などが適合します。 1974年からスタートしたSIGGRAPHは、もともとはコンピュータサイエンス分野の学会として発祥しました。 今でも学会であることは変わりませんが、80年代からCGが映画の特殊効果に採用され、90年代には3Dグラフィックスがゲームに応用され始め、CGとそのインタラクティブ技術が産業界、民生向け技術として広く認知されてからは、年々その規模を大きくし、現在では大型の商業コンベンションセンターを丸ごと貸し切って5日間も行われるような一大イベントとなりました。今では、すっかり夏の風物詩という感じになり、多くの研究者、技術者、学生、そして周辺産業関係者が世界各国から参加しています。
今回は、7月25日から29日まで開催された、このSIGGRAPH2010の模様をレポートします。

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- ゲームグラフィックス関連セッションが増加、細分化~今年のトレンドは?
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近年のSIGGRAPHで、特に人気の高いセッションは、大ヒット映画のCG部門の技術者のセッションです。今年も、数多くの有名タイトルの特殊効果開発後記的なセッションが執り行われました。今年のSIGGRAPH2010では、やはり3D映画の代名詞にもなった「アバター」を取り扱ったセッションが人気を集めていましたが、それ以外にも「トイ・ストーリー3」「アイアンマン2」「トロン・レガシー」といったビッグ映画タイトルのセッションもあり、今年は映画系セッションは豊作だったと言えます。

左がCGベース、右が等身大ブリキスーツのアイアンマン。アイアンマン2では粗面加工の金属感を出すためにBRDFベースのシェーディングだけでなく、特殊な異方性の鏡面反射シェーダーを設計したという。「トランスフォーマー」のロボット達の表面はクロム材質なのでそれほど苦労はなかったが、実はアイアンマンの方が質感再現の難度が高かった…というよな裏話も。そして、近年のSIGGRAPHで、特に増加傾向にあるのが3Dゲームグラフィックス関連のセッションです。GDCで執り行われるような特定の有名ゲームタイトルの開発を振り返るような技術セッションはもちろん、今年はゲームに用いられる実践的なリアルタイムレンダリング技術を、その種類ごとにカテゴライズしてコースセッションとしてまとめていたものが目立ちました。影生成や大局照明(グローバルイルミネーション)といった定番のテーマはもちろんですが、今年はリアルタイム画面座標系エフェクトに特化したコースセッションや、非写実系ゲームグラフィックスに特化したコースなどもあり、より詳細なカテゴライズが進んだ感じがあります。それだけ3Dゲームグラフィックスの存在がSIGGRAPHにおいて大きなものとなってきているのでしょう。今後もこの傾向は進みそうです。
さて、ゲームのビッグタイトル系開発後記で人気を集めていたのは、やはり、PS3の近作ヒットタイトルの「Uncharted2」や「God Of WarIII」(GOW3)でした。
GOW3の開発後記セッションでは、初のPS3版GOWシリーズとなったGOW3のグラフィックスの設計経緯が語られていました。大人気タイトルであるがゆえ、全てのユーザーが納得する形での進化が要求されたため、単に新技術を盛り込むだけではなく、シーンの形状デザインや配色デザインに際して心理学的な配慮までを取り入れるなど新しい試みが数多く行われたとのことです。また、リアルなビジュアル表現が出来るようになったPS3において、"空想"世界であるギリシャ神話の世界をどう表現したら"リアル"に感じてもらえるのか、そうした模索にいても語られました。例えば冥界の王ハデスの皮膚は、地獄の火に焼けただれているはず…という着想を元に、窯焼きのチーズピザの焦げ目を再現する質感表現を行ったとのことです。
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心理学的にも配慮してシーンデザインを行ったというGOW3。 近年の欧米の大作はビジュアル・コンセプト設計に時間を掛ける傾向にあるようだ。 |
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| 冥界のボス、ハデスの質感は窯焼きピザの焦げ目からインスピレーションを得たという。 |
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3Dゲームグラフィックスの技術系のセッションとしては、「Physically Based Shading Models in Film and Game」が初日に執り行われたと言うこともあり注目度が高かったようです。このセッションでは「これからの3Dゲームグラフィックスは物理ベースのレンダリングを心がけていくべきである」というコンセプトに基づき、複数のゲームスタジオの登壇者が講演を行いました。
日本からはトライエースの代表取締役社長,五反田義治氏が登壇し、自社開発のASKAエンジンにおいてBRDFベースのライティング手法を実装したことを報告しました。 BRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function)とは双方向反射率分布関数のことで、簡単にいうと、材質ごとの光の反射特性を実際の光学現象に則って一般化したもので、具体的には視線、光源、法線などのパラメータを引数にして陰影処理結果を返す関数になります。 シェーダーパラメータを試行錯誤して職人芸的に作り出した材質表現は、ライティング条件が変わっただけで目的の質感が表現できなくなってしまいます。しかし、実存する材質のBRDF情報をチューニングして材質を作り込めば、あらゆるシーンで説得力のある質感表現が可能になります。これこそが、物理ベース・レンダリングの強健性というわけです。 この他、五反田氏は、ASKAエンジンにおいて、このBRDFを環境光ライティングにおいても配慮する手法を発表していました。
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左がトライエース・ASKAエンジンの物理ベースレンダリングの結果。 右が従来の基本的なシェーダーをパラメータ調整でレンダリングした結果。 |
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環境光ライティングにおいてもBRDFを利用。淡いハイライトが出ている点に注目。 環境光に対しても鏡面反射のライティング結果が出ている証拠である。 |
- 「Stylized Rendering in Games」コースセッションでは、いわゆるイラスト系レンダリングを採用した最新タイトルの技術開示が行われました。 UBISOFTの「プリンス・オブ・ペルシャ」では、輪郭線描画と典型的なセルシェーディング(トゥーンシェーディング)を組み合わせたレンダリング手法を採用していますが、それに加えて動的生成した影の輪郭線までを描くようにしていることを発表していました。 影の輪郭部分のジャギーの低減は3Dゲームグラフィックスにおいて重大なテーマですが、同作では影の輪郭線をなぞってしまうことで、このジャギーを消しつつ、イラストテイストを増強しているというわけです。
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| 「プリンス・オブ・ペルシャ」のイラスト風レンダリングの秘密。 |
- 「Advances in Realtime Rendering 3D Graphics and Games」では、最近流行しているリアルタイムな大局照明や影生成、アンビエントオクルージョン(環境遮蔽)の取り扱いテクニックの話題など、3Dゲームグラフィックス技術のオールラウンドな話題を取り扱っていました。 エレクトロニックアーツ傘下の開発スタジオEA DICEは、動的な光源移動にも対応した疑似的なリアルタイム大局照明技術を発表していました。 あらかじめ表示用の多ポリゴンのシーンと、対応した超低ポリゴンのシーンを作り込んでおき、そのシーンに対応したライトマップ生成と、あらかじめ設定しておいた複数の調査点(Lightprobes)における間接光量(環境光量)をGPUとは非同期にCPUで求めます。 Lightprobesは低解像度の3Dテクスチャに展開し、Deferred Rendering(そのシーンのジオメトリをライティング抜きでレンダリングし、必要なパラメータを画面座標系で先出しし、後段パスでそのパラメータを元にライティングを含む最終レンダリングを行うテクニック。 ライティングに用いる光源数の上限を撤廃できるメリットがある)で、この3Dテクスチャをサンプルしてライティングを実行する…というシンプルな実装です。ポイントはLightprobesを3Dテクスチャに展開してしまい、大局照明的な環境光ライティングをDeferred Renderingに統合してしまっているところです。 PCないしはPS3では有効なテクニックとなるかも知れません。
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CPUで粗いジオメトリのシーンに対してのライトマップ生成とLightprobesにおける関節光量を計算(左) |
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ライトマップをシーンジオメトリへ適用した結果(左) |
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最終レンダリング結果 |
- 「Split Second Screen Space」Talkセッションでは、様々な画面座標系のテクニックが語られました。 発表された技術の中で、特に注目を集めたのは、ルーカスアーツが「THE FORCE UNLEASHED 2」(TFU2)にて採用したという、30fpsのレンダリング結果をほぼノーコストで60fpsのように見せるというテクニックです。 最近の液晶テレビには、倍速駆動技術と呼ばれる、映像をスムーズに見せて残像を低減させる技術があります。 これは前フレームと現在フレームの相関を見て中間のフレームを生成して、これを表示することで実現されています。 ルーカスアーツは、この技術を3Dゲームグラフィックスのレンダリングに応用してしまったのです。 これを行うためには、画面内の全画素の動きベクトルをレンダリングする必要があります。これはベロシティ(速度)マップと呼ばれ、モーションブラー生成などの際にも生成することがありますが、これは各ポリゴンが前フレームと現在フレームでどう移動したかの差分情報から簡単に求められます。 TFU2では、前フレームの映像(レンダリング結果)とそのZバッファの値、現在フレームのベロシティマップ及びZバッファを用い、シェーダーで前フレームと現在フレームの中間フレームを生成して表示してやることで30fpsを疑似60fps化したというのです。 なんとも大胆な発想ですが、ライティング等に負荷の高いシェーダーをたくさん動かしているタイトルで、見かけ上、ハイフレームレートを実現したいときには役に立ちそうなテクニックです。
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液晶テレビの倍速駆動技術の発想を、ゲームグラフィックスのハイフレームレート化に |
- EMERGING TECHNOLOGIES展示セクションに見た次世代映像技術
- SIGGRAPHの名物展示セクションに「EMERGING TECHNOLOGIES」(通称E-TECH)があります。 ここでは製品化前の研究所レベルの先端研究が展示発表されるところで、毎年、日本企業や日本の大学の出展数が多いのが特徴となっています。 今年も例年通り、日本企業や日本の大学の出展が目立っていました。 中でも注目度が高かったのは、ソニーが展示していた360°全周の卓上裸眼立体ディスプレイです。
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中心角の1°ごとに360°分、360個の視差の映像を表示することで全周における動じた視点立体視を可能にするRayModeler。 |
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円筒形の側面側の外壁面全てに映像が表示されるのですが、それだけでなく、360°の1°刻みの360個の視差に対応した表示を行っているために、360°どこから見ても裸眼立体視に対応するのです。 立体物をこのディスプレイで表示した場合、その立体物の前面→側面→背面をシームレスに裸眼立体視で観察することが可能なため、まるで円筒形内部に立体物が実存しているような視覚効果が得られていました。
ブースでは、PS3で動作する、このディプレイ専用の特製「360°ブロック崩しゲーム」がPS3が体験できるようになっていました。円筒内の内壁に敷き詰められたブロックを、円筒内部を自在に飛び回るボールで打ち崩していくようなシンプルな内容でしたが、平面から飛び出して見える一般的な立体視とは違ったインタラクティブ感が斬新でした。
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裸眼立体視ディスプレイの新しい形。ゲーミング用途への期待度は高そうだ。 |
- 各画素は内部に仕込まれたRGB-LEDアレイによって表現されており、視差バリア的なマスクを回転させることで全周映像の表示を行っているとのことです。アミューズメント用途への応用を目指し、今後も開発が続けられるとのことでした。 これに隣接する位置でブースを構えていたシャープが出展していた新型液晶パネルも来場者の注目を集めていました。
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左が一般的なRGB3原色パネル、中央がマリリン・モンローのリトグラフの実物。 |
- シャープは4原色液晶パネル「Quattron」を2010年より実用化し、これを採用した液晶テレビのAQUOSシリーズを製品としてリリースしていますが、今回展示されていたのは、さらに一色増加した5原色液晶パネル「QuintPixel」です。 ちなみに、実際には、5原色パネルの方が、4原色パネルよりも先に研究開発されていて、製品化にあたり1色落として4原色になったとのことです。 下図で▲でプロットされているのは「自然界で人間が目にする機会のある物体色の分布」です。この図において黒線の三角形で表されているsRGBは、多くのPCディスプレイや液晶テレビで採用されている色域モードですが、黄色方向と水色方向の多くがカバーできていないことが分かります。 製品化された4原色パネルは、この黄色方向の再現性に重きを置いたものになります。 今回、展示された5原色パネルは水色方向にまでカバー率を上げたパネルと言うことになります。
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5原色QuintPixel液晶パネルの色域カバー率 |
- 実際の5原色パネルにおけるRGBCY(赤緑青+水+黄)のサブピクセルの配置は「RCGRBY」というふうになっていて、RCGの3色とRBYの3色だけでかなりの割合のフルカラーピクセルを再現出来るようにしたことも特徴点として訴求されていました。 CにはB成分が含まれ、同様にYにG成分が含まれるため、RCG、RBYは共にサブRGB画素としての振る舞いも十分可能というわけです。 このため5原色パネルでは1ピクセル以下のグラデーション表現や解像度表現も可能であるとして、その副次的なメリットまでをもシャープは訴えていました。
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実際のQuitPixels液晶パネルを拡大して撮影した写真。 サブピクセルがRCGRBYの配置になっていることが分かる。 |












